詩誌紹介
ウルトラ
発行所
ウルトラの会
発行人
和合亮一
編集人
及川俊哉
創刊年月日
1997年8月
主要同人・寄稿者
川島清、高塚謙太郎、廿楽順治、福田武人、松本秀文、渡辺めぐみ、及川俊哉、和合亮一
在庫のある号数
10、13号
最新号
高塚謙太郎、タケイリエ、一方井亜稀、松本秀文、福田武人、川島清、
及川俊哉、渡辺めぐみ、和合亮一、山内功一郎。
特集:吉増剛造「言葉の黄金の葬列に『詩』という名を名づけて」
特別企画 吉増剛造氏インタビュー「詩と非・詩との間で」(聞き手 和合亮一)
定価
500円
最新号推薦作
非常階段
一方井 亜稀
白いドアの銀のノブに手を掛けると(静電気ののち)冷えた感触が身体中に感電して非常階段だった そこはビルの隅っこ(非常事態だった)昨日の夜から食欲がない からっぽの食堂に唯々唾液を落とし酸化する雨 勢い余って路上に唾を吐いてしまう日もあった タクシーが通過して 乗りもしないのに手を上げたことがあった イエス 賛成します全てのことに賛成します つまりはそういうことだろう街角のピアノ弾きよ おまえは歯抜けだからチューブに詰まった唾の抜き方が分からない 酸化した雨をリトマス紙に垂らす子供の無邪気さで太陽みたいなオレンジジュースを飲み干す 流しの身にもなってみろ 呼び止められ 振り返ると誰もいない キツネにつままれたような気分だ 見ろ 青空から雨が降る 昨日から食欲がなくて(非常事態だ)今日は朝から何も食べない 水一滴飲んでいない 唾液が食道を下り酸化する雨 非常事態の空の下を通過するタクシー お前を見捨てる 雨は海へ流れてゆく 排水溝を伝って川を伝って だから非常階段の前に立ち聴こえる電子音楽は空耳だった(空耳だろう) 只今よりチューブに唾を溜めない実験開始 一散に階段を下れ 遠ざかる空を背に(からっぽの空だ)だがしかし あらゆる場所から逃走せよ その声は確かに聞こえていた
ガールズワンダーランド
タケイリエ
雨がふるたび増えてゆく
のびてゆく
ひねくれてゆく
ひねもす成長する
植物のつぼみのようにまるまるとふくらみ
あらゆるものを友にして健全に濡れる
街路樹のとなりをてくてく歩き
地下道にずるずる潜ってゆく
暗いところは素晴らしいので
うっかり芽を出しそうになるかわりに舌をのばす
(カワイイ と褒めちぎられる)
きもちわるい日本語が
マラリアみたいに蔓延している世界では
わたくしたちのささくれだちも感じられない
灰色に冷えた海岸線に寝そべる
あのまるまる肥えたオットセイのために
ぴちぴちした小魚になったりもする
真昼の闇のなか不満にみちた水槽では
わたくしたちの泳ぎはいつも足りない
だからきゅっと首を絞めて「かたち」に整って
ならんでまえへならうふりして舌をのばし
みひらかれた眼を包んだ静物になる
にぎやかに汚れたテーブルで
傍観と冒険をひとしきり溶かしたあと
わたくしたちは沸騰する