詩誌紹介
ウミツバメ
発行所
ウミツバメの会
発行人
光冨いくや
編集人
光冨いくや
創刊年月日
2010年12月
主要同人・寄稿者
浅野言朗、油本達夫、今鹿仙、洸本ユリナ、広瀬弓、光冨いくや
在庫のある号数
1号
最新号
ゲスト・坂井信夫、浅野言朗、油本達夫、今鹿仙、洸本ユリナ、広瀬弓、光冨いくや
定価
400円
最新号推薦作
三つの部屋
待合室
浅野言朗
壁に 消えかけた時刻表のかかる一室
うずくまる兵士や立ちすくむ兵士がいる
淡く染みた光に身じろぎもせず
じっと世界が巻き戻される時を待つ
それぞれの待人を待ち
それぞれの姿態をなぞっている
やがて窓の外に現われた人の列は
等間隔に 部屋の周りを旋回している
一人 また 一人
訪れた人に連れ去られる兵士
最後まで誰にも迎えられない一人は
誰にも見えない微笑みを浮かべている
渡る
広瀬弓
クリスマスイブの日だったと記憶する。コンクリートブロックの堰を飛び石にして、その人と中州へ渡った。うみのように幅広い空間と時間を越えて行くと、向こうはあった。
立ち枯れた草木がアーチを作っていた。人の背を覆い隠すトンネルの小径を、その人はどんどん奥へ進む。気が気でないわたしにお構いなしだ。さっきからアーチの隙間に見え隠れする影たちに気づいて、五官を尖らせ警戒していた。それなのにもっと深く行こうとするので、もう帰ろうとわたしは言った。その時、遠巻きにしていた影たちの輪がずっと縮むように動いた。
枯れ野の隠し扉を開け飛びかかろうと窺っている黒い斑の影たちは、間違いなく人のモノだ。餓鬼に堕ちたモノほど厄介なものはない。女のあそこから貪り食うと聞いていた。幸いにもわたしには俊足がある。鋭敏な感で察知し、すばやく逃げおおす自信があった。すると後に残された人はどう疑(うたぐ)るだろう。見捨てられた、あるいは囮にされたと思うに違いなかった。まさか、僕を楯に君は逃げろと言ってくれるだろうか? わたしたちは自分が一番かわいいと思う。つないだ手を引っ張って、ねえ帰ろうと言うと、なに怯えているのとその人は笑った。手を伸ばせば届くぐらい輪は近づいている。
中州に住む人を土手から眺めたことがあった。ピンクの花と野菜畑の内側に草を編んで四角に囲ったねぐら、あの中に引き込まれるのだ。土手で人が殺された時、あそこに近づいちゃだめと言われたことがあった。
察知した、足が走る、橋は、橋は、橋は…、
落日の輝きは波風に乱れる 水面が平にならなければ 戻り橋は架からない と知っていた
轟音
御神(おみ)渡りに記憶のうみは裂け
三筋の道