詩誌詳細「酒乱」




2009年10月10日、正式オープンしました。皆さまのご利用をお待ちしております。

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詩誌の情報と販売サイト 44プロジェクト Last Updated 2012-05-25

酒乱4号.jpg

詩誌紹介

酒乱

しゅらん

発行人

書肆酒乱

編集者

木葉揺、郡宏暢、森川雅美

創刊年月日

2008年4月

現在までの発刊号数

1号、2号、3号(完売)、4号(完売)、5号

同人

伊藤浩子、今唯ケンタロウ、榎本櫻湖、大久保正雄、岡崎よしゆき、岡野絵里子、尾田真璃、金子鉄夫、河邊由紀恵、久保亘、郡宏暢、後藤和彦、木葉揺、鈴木啓之、ブリングル、前田利夫 、望月遊馬、森川雅美、和田吉生

最新号執筆者

岩切正一郎、相沢正一郎、寮美千子(以上ゲスト)、榎本櫻湖、大久保正雄、岡崎よしゆき、尾田真璃、金子鉄夫、郡宏暢、後藤和彦、木葉揺、ブリングル、望月遊馬、森川雅美、和田吉生

最新号特集

詩と散文の間

定価

1000円

最新号推薦作品

イジワル
ブリングル

 ある晩ひしゃげたアパートまでの帰り道夜は昨日見つけた蛙の目玉のようにただひたすら黒い夜でお月様は遠慮深げに少しばかりのお星様がぺたりと平べったく張りついているだけなのを見ていたらすんと星はひとつぶだけ流れていったほらあの工場の前虹色がにじむ廃油をたどって帰る駅の高架下くぐるとあらわれるキャバレーとかパチンコ屋とか眩しい街のまんなかで落ちたみたいだからきっともう電飾に焼き付けられて死んでしまっただろうと思い思いいつも近道にえらぶお稲荷さんに続く消し炭みたいな石段の脇道のぼろうと思っていたらその先まっすぐ進んだほうにあるあの黒い大きなお屋敷の影になんか光ったものが落ちているのに気づいたなんかわからんけどもしかしたらさっきのお星様の埋め合わせになるかもしれんてなんか拾いたくなってむこうの曲がりかどに青い街灯が一つきり光っているだけの暗がりそれを拾ってポケットに入れるとひそひそ話のように身体を曲げてなんも拾わんかったように帰り道の続きをした小走りに続けた脇にある売り切れだらけの煙草の販売機のそばへ行って灯りをたよりに静かに取り出しよく見るとそれはイジワルだった

 寂しがりのイジワルは暗闇にひっそりとなんていられないからひかひかと地面で卑屈なくらいへばりつきながら闇夜だって遠慮なくいじけた光を放ちながら誰かに拾われるのを待っていたにちがいない寂しいやつわたしにはもう小さい頃にささってとれない蒼白い奴や30分ほど前に職場の黒電話から届いて耳にささったばかりの桃色の稲妻みたいなのがいるからもうオマエを連れてはいけないんだよといわなくてはいけないのにヤサシイみたいに控えめじゃないイジワルはさっきの流れ星より昨日の線香花火よりも潤んだ光を反射させてわたしをはなさないもんだからいったい誰が落としたんだろうって遠くにはさっきの黒い大きなお屋敷の影やっぱりあの家の誰かから抜け落ちたのかなそれともあの家の誰かがナイショで隠し持っていたのかな玄関のベルを鳴らして尋ねようか変な奴に思われるからやめようかだったらポストにそっと入れて置いたらいいかとイジワルにそっと目をやると温そうにぼんわり光ってまるで寝息をたてとるみたいだから人にやるのが惜しくなってそうだ明日に備えて持ち帰ってやろうとイジワルをがま口にしまおうとしたら小指に弦をはじいたような痛みが走るもんで手をはなしてしまいイジワルを足元に落としてしまったよ

奴め噛みついてきたんかなまったくもうイジワルのいじわるめとわたし小指をしゃぶりしゃぶりイジワルをにらみつけこいつめとひかひかとした瞬きごと踵で踏みにじったら粉々にくだかれ地べたに刺さったイジワルは泣いてるみたいでなんかわたし悪いみたいに思えてしまうよだけどそんな木っ端みじんじゃもう連れて帰ってやれんよって言い聞かせるように話しかけたのだけど粉々のイジワルはいつまでも闇にとけずに星くずみたいに瞬いているほらあんなに小さくなってもまだひいかひいかとくりかえし瞬きをわたしに届けるから見下ろすわたしは目をそらせない

   このままじゃどこにもたどりつけない

 気づけば空がたかくってわたしは夜の地べたに凍り付いてあああそうかわたしきっと霜柱になったのだなほら見てもうすぐ夜が明けるゆっくり動き出すあああ眠くなってきたああもうすぐ誰かに踏みにじられる砕かれるそうだ音が聞こえてくる瞬くわたしの欠片の音がああ聞こえる聞こえるもうすぐほら聞こえるんよ

 ねぇイジワル


非日常
望月遊馬

アフリカゾウの声が間伐をこえて
咆哮ともつかない言葉のまま
ロータリーの角を歩くクオーターに唄われている
ことごとく暴力的で
ことごとく音楽的であるかのように
メヌエットの非和声音に
刻むリズムの最先端としてかたちを映写している

       (ハートから
        ハンマーへとかわる
        君のことを
        シャツのデザインのようなものとして
        もしくは暴力性として
        想定している)

そのリズムのむこうに白い家族性があって
もう、リタルダンドが
何ものにも関わらない音楽として
もしくはミニマル・テクノとして
そこにあることを天体のように感づいている
丘のように見えた人の背中に Petrarcaを
賛辞をうけてくちずさむ
石であって

   (虫の友だちがたくさんいるわたしは
    幸せである
    幸せではあるけれども、マンションに住んでいて
    五階よりも上には、あまりゴキブリがやってこない
    頭のいい蚊は、エレベーターで来ることもあるが
    それでも音楽性のある蚊が、耳にちかづくことは
    少ない)

雨と雨をつないでいくアルペジオの点描には
思いやりにあふれている非常があって
君はそこをぬけていく虹になり
そこにはもう何もない
という仮説だけが宙に浮いたままで
クレーターはさらに沈んでいく
(眼鏡のような)
それが幸いだったら
すべてがおはようと
いっせいにさえずりはじめる夜であって





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