詩誌詳細「エウメニデス」




2009年10月10日、正式オープンしました。皆さまのご利用をお待ちしております。

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詩誌の情報と販売サイト 44プロジェクト Last Updated 2012-05-25

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詩誌紹介

Eumenides Ⅱ

エウメニデスⅡ

発行先

小島きみ子

編集者

小島きみ子

創刊年月日

1993年

最新号

38号

在庫のある号数

34、35、36、37、38号

同人名

小島きみ子個人誌

定価

500円

最新号執筆者

小笠原鳥類(散文) 海埜今日子(散文・詩) 相沢正一郎 杉本徹 伊武トーマ
清水茂(散文) 小島きみ子(散文・詩) 高塚謙太郎

最新号特集

ルドンが見た「目に見えないもの」

最新号推薦作品

まよなかの教室
相沢正一郎


ある日、同窓会のお知らせの葉書が来ました。小学校は七十年も前に卒業していますから、担任の先生はもうおりません。おなじクラスの仲間たちも、毎年、まるで歯が抜けるようにいなくなる――宴会には、空いた椅子が目立ちます。また会っても、欠席したひとの噂ばかり。それから、「最近、目がかすむ、耳が遠くなる、足腰が弱くなる、血圧が高くなる、物忘れが激しくなる、性欲が衰える」と、そんな話ばかり。(あるひとに言わせると、「ハマラメ」ということばもあるらしい)。とにかく、おたがいに傷を見せて自慢しあっている。病気ひとつ持たないと肩身がせまい。
 さて、その同窓会の通知の葉書なんですが、いつものように、いっくら探しても見つかりません。「いつものように」といいましたが、まいにち眼鏡やら、ハンコやら、鍵やらを探しています。まるで、夜になると妖怪が出てきて悪さをしているようです。このあいだなんか、コンサートのチケットを隠してしまって、なんと冷蔵庫の中で発見。なんとも悪戯好きの妖怪ではありませんか。そのうえ、わたしの頭の中にまで侵入してきて、大切な用事やら、ひとやものの名前なんかさえ盗んでしまう。
 あの葉書は、たしか机の……まあ、いいでしょう。じつを言うとわたし自身、学校にあまりいい思い出がありません――学校の行き帰りの長いながい道の途中、ちいさなランドセルがいやに重かった。……校庭のちっちゃな花壇や兎小屋、水のないプールの底に舞う枯葉、音楽室の音楽家の肖像、窓のすきまから流れる雨の滴、机や腰掛の上にたまった埃、白墨の文字を消したあとの黒板の星雲。
 それにしても、いまだに試験の夢をみて、うなされる――忘れてしまいたいのに、忘れられないこと。たとえば、校正の仕事が深夜までかかってしまい、タクシーでやっと帰宅。ベッドに横になり、とろとろ眠りにとけこんだ、と思ったら、たいへんな間違いに気が付き……といったことも夢の中で繰り返されます。夢は願望、といわれますが、こういった夢の場合、どういうふうに考えればいいんでしょう。
 さて、夜中にふと教室に忘れものをしてきたことを思い出しました――夢の中で、です。あした……とも思いましたが、ひとの目にふれると大変なことになる。本当は、小学校を卒業してから、もう五十年以上もたっているんですが、焦燥感にかられていて、とてもそれどころじゃありません。視野が狭くなっている。……ははん、どうやらいつものようにテーブルで眠ってしまったな――と、はんぶん目醒めてつぶやく。いつのまにか、台所が小学校の教室に変わっている。
 教室は、当時とまったく変わっていません。不思議なのは、わたしのからだが大きくなったわけですから、当然、教室の机とか椅子なんかが小さく見えるはずなのに、ちっとも変っていない。老いて、からだが縮んだからかもしれません――そんなことをぼんやり考えていると、廊下をぎしぎし踏むあしおとが……。そうだ、同窓会はきょうの午前二時、この教室だった。そして、発起人に名を連ねていたのが、すでに他界したはずの同級生たち……。
 あしおとが、だんだん近づいてきます。


花/エイデュリア
杉本徹


麹町だったか、神谷町だったか、地下へと降りる〝恋歌〟を聴いた
……それは、うれしいこと


歩道橋から真紅の花を見た。もう、西への遭難について(あなたは)何ひとつ語ろうとしないのだった。襟を片方だけ立てると、空は謎のまま、どの方位の均衡をも保ち、遠い埋立地に雨という異語を降らせるのだった。


雨について、九月の持ち主のいない、再生画像について
わたしは不燃物の集積に、シチリアの言葉を読んだ、それも〝恋歌〟の
吹きさらしの一節であったと
都心の水に尋ねた、……いまは光に泳がせても指は鳴らない、のだけれど


そうして、(あなたは)舗石に手をついてみる
くずれるまで眼を閉じていたい、地球も、麵麭(パン)も、……いいえ聴いていたい


排気口の精にアクリルの羽、手渡そうとした――
解体工事の現場では火の粉(子?)がかすかな韻を、踏んでいた
ずいぶんと駅舎じみた建物だから行商の、人影もちらほら行き交って
〝一反の日蔭……〟と聞こえた会話も
タクシーの渦と砂にまぎれて


……区立図書館に引いた潮
麹町だったか、神谷町だったか、地下へと降りる〝恋歌〟を聴いた


花を縛る黒いリボンが、ゆるやかに風景に垂れていって、その齣送りの端々にわたしの、いつか散り敷いた雨滴の繭の残像を、かさねあわせる。それ、……それらの点の果てのなさに、ひとひらの、と呼びかけるのはあまりに残酷すぎる。斜光とともに歌が、降りてゆく、やがて声なき声を巻き戻すために日蔭の星は黙契のようにねむるのだと、階段で知る。



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