詩誌詳細「あんど」




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詩誌の情報と販売サイト 44プロジェクト Last Updated 2012-05-25

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詩誌紹介

あんど

「あんど」 9号(現在休刊中)

在庫

3、5、6、8、9号

発行

あんど出版

創刊年月日

2002年11月

同人

飯田保文、江村晴子、作田教子、前田利夫、森川雅美、湯川紅実、渡辺めぐみ他

特集

3号江代充 
5号田野倉康一 
6号葉紀甫(入沢康夫監修)
8号新しさを越えて(新川和江、福間健二他)

最新号執筆者

・作田教子・前田利夫・森川雅美・湯川紅実(以上同人)岸田将幸・斉藤恵子・廿楽順治・田中宏輔・中尾太一・浜田優・文月悠光・渡辺玄英

最新号特集

詩はいまを問えるか―無をめぐる冒険

定価

500円

最新号推薦作品

毒を作用する
湯川 紅実


そこは川床のそば
山から立ちのぼるかすかな硫黄
かがやく鉱脈
岩にわたしがさわり、
きみがさわり、
ふれあう指が生きていた

静かに作用する石は毒を孕み、
ただ一緒にいる
ほんとうの住処を探しつづける
断片となった毒がさまよう

きみは病室でかがやくテレビと電波を受けながら、
いくつか天気の話をしながら次の植樹の日をかぞえた

ああ、
最後の日を
もしも
わたしがあやつれるのなら
それは船底のような、
まるい夕焼けの日だろう
小さな帆で旅立つ小さなきみが
数万回生まれ変われる、
それくらいの時間。
金平糖の角がゆっくりと育ち、
静かにだれかの口に含まれるまでの時間。
石にしずかに金脈が伸びる時間。

まるで生まれたとき、
それが無毒であったように
何気なく命の透き間に入り込み
痙攣もしくは地震の予兆か
忘れようとしても消えない傷となる未来
胎動するその大地のしたから
生まれてみせようとする力

きみは、はっきりと歌う
いつも涙をぬぐっているかのように湿る石は
木の呼吸を白い肌に受けている
心は浄化できず
いつもただそこにある結露
しずかなしずくの背後に毒の誕生があったとして
その力も空気と結ばれて
ただ生まれること
生きていてほしい、と願うことのうしろがわ
ただわたしたちに、毒であるだけで

今日
きみが
地表を覆うすべての色を
見届けたい、と言った


遠景
作田 教子


泣きそうなほど遠いおもいを懐いています。
なぜとどかないのか、なぜ向こうからの風は吹かな
いのか、なぜ声にならないのか、黙して風に吹かれ
軋みをうちがわに封じこめることだけで、息を繫い
でいるのでした。


泣くことはできません、わたしが消えていくからで
す。わたしは息と軋みだけになって、眼を見開き、
耳をたて、たくさんの人々は傍らを通り過ぎていき
ます。みんな笑い合って通り過ぎていきます。人々
は誰もわたしを見ることはできません。
見えないものを、見ようとはしません。


肉体が消えてしまった日には、頭上の空は真っ青で
遠くに雲が、忘れられたノートの余白のように浮か
んでいました。
感覚だけになった肉体から見える空は、これ以上美
しい、冷たい空はもう再び見ることはできないだろ
うと思われ、わたしには最期の空の写し絵のように
冷たく輝いていたのです。
そしてこの空は切断したら真っ赤な夕焼けに瞬時に
姿を変えるのです。


感情はなにもないのに、痛いのでした。
(痛い)と告げられるような痛みではなく、わたし
の無い肉体の奥に、鋭く細い刃で深い穴を開けられ
たような痛みでした。風がその穴を通り抜けていく
のです。
・・血は流れない・・・・・
けれど、その痛みはわたしの丸ごとをねじるように
うねっていくのです。肉体が無くなって、痛みが、
わたしのかたちなのです。


この痛みに気づかずに生きていくこともできたので
す。けれどこの痛みがわたしに気づいてしまった以
上、もう抱いてゆくしか方法はないのです。
絶望的な痛みです。けれど両手で無いわたしのから
だを抱いてゆくしかないのです。きしきしと無言の
鳥のように鳴いて。


共有し得ない痛み・・・でありながら遠いどこかへ
繋がっていて、この痛みがその遠いどこかにも必ず
在る必然だということも、不思議に確信できるので
した。たぶん、その遠いどこかの空もまた、冷たい
真っ青な海の色をしているのです。


泣きそうなほど遠いおもいを懐いています。それが
(痛い)なのでした。
はるか遠くの森。
はるか遠くの地平線。
肉体の消えてしまったわたしは、はるかなものへと
糸のように細い視線になって繋がってゆきます。

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